〜AUNT SALLY  Phew & INU 町田康 篇 〜






僕はマイクです。16号と呼んでもらっても構いません。僕たちは凄くデリケートなのですが、恐れず、怯まず、とらわれず、お答えしましょう。
 ハードロックやメタル系がブームになるちょっと前のパンク系のお話なんてどうです?
 やっぱり一番先に思い出すのは、アーンツサリーのPhewの事でしょうか。
 最初ギターのbikkieとPhewとでふらっとバハマに入ってきた時は、ユニセックスって言ったんですか? Phew が性別の解らない雰囲気で、話していても解らない。で、ライヴが始まって、男の子だってスタッフ全員納得したのですが。
 実は女の子だったんだ。これが。
 で、演奏。
 これがまた凄い。
 なんて下手なんだ。
ふう。
 全員がオーディションで落とされると思ってたんだけど、何故か謎が多すぎた。
 音程の狂った中での透明感、強いて言えば快い。
 その謎の故にレギュラーとして活躍して貰ったのだが、オリジナルが増えるにつれどんどん研ぎ澄まされて演奏が始まると、違う次元に迷い込んだようなPhewの独自の世界を作り出したんだね。
 タイムワープされて無限の哀しみが………ふぅ。
 後に坂本龍一がプロデュースしたのが解る気がする。
 でもね。
 僕たちを使い慣れるにはだいぶかかったよ。
 特にGのbikkieさん。
 言っちゃあ悪いが、背がかなり低い。
 初めの頃の話とはいえ、マイクスタンドは調節できるのに、しない。
 コーラスの度に、はるか頭上の僕たちに届け! とばかりのジャンピングコーラス。

 ピョヨーん「ヘイヘイ…」 ピョヨ〜ン「ヘイヘイ……」 ピヨヨ〜ン「ゴキッボゴ! ピ───

 痛いと言えば、そう。INUの町田町蔵(現・町田康)君も随分と痛い思いをさせられましたネ。
 今は芥川賞とかとって、作家としても大いに活躍していますよネ。
 彼は高校生だった。シン君や林君らのINUというバンドのヴォーカルとして可もなく不可もなく………特筆すべきはアドリブ力、刺激的な歌詞、カリスマ性、攻撃的でありながら頭の良さを感じさせる──そんな彼のライヴは。
 僕たちを叩くぶつけるぶん投げる。
 「ボコ」 「バゴ」 「ヴォーン
 いくつもの仲間が、死んでいきましたネ。 合掌。

 INUが解散して町田君がソロで活動中(映画とか)友達のライヴを観にバハマに来ていた時、無理やり飛び入りセッションを頼まれて、知らない曲でどうするの?困ったネと僕たちが囁いた時、バックのイントロが始まった。
 途端に、やおらメインマイクは口の中。中ですよ、中。
 漏れてくる音は
「も〜でムムまーゴムムウゴゴウゴゴギャーヴォーン
 もーギムムウームムム、ムゴムムゴムギャーウォ〜ン」


 とうとう一曲、やってしまいましたネ。
 アドリブの歌詞は最後まで何を言っているのか解りませんでした。
 僕たちですか。
 両サイドに居た僕たちは思わずハウリングにのせて

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏        
 ひるみつつ……(恐れるし、怯むし、とらわれるってッ!!)   
 ソレ人間の浮生ナル相ヲツラツラ観ズルニ
 オヨソハカナキモノハコノ 世ノ始中終。
 マボロシノゴトクナル一期ナり
 サレバイマダ万歳ノ
 ………
 ……

 フェイドアウトッ!!(-_-#)





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