〜ノヴェラ篇 〜






誰ぞ(たぞ)、誰じゃ(たじゃ)。
わらわを眠りから呼び覚ますものは……
おお、なんと不吉な!
空に赤いほうき星、地には凍えるようなこの冷気!
魑魅魍魎どもが跋扈する『時』がとうとう参ったのか……何?
美術丸卦(ビジュアル系)の染めた髪? 苦雨楽(クーラー)?
何を申しておる、我が君はいずこじゃ、今宵こそ我が君に一夜のお情けをすがるのじゃ。

(ちょっと混乱しているようなので現在の状況をこの10cm程の透き通ったものに説明します)


何とわらわが眠らされてから20年近くもたってしもうたのか。
おのれ飲酢牌也(インスパイア)一号め……あ奴の顔を見てしもうた為にわらわは気を失うてそのまま……。
わらわを覚醒させるのは今のように我が名を唱えることじゃ。わらわは伊丹の局(いたみのつぼね)じゃ、恐れ多くも冷泉院の帝の覚えもめでたく歌人としても当代随一と言われたものよ。
今の時候の一句、

瀬をはやみ 岩にさかるる 鮎の身も
さっとあぶれば 捨つることなし


どうじゃ『ぷろぐれっしぶ』で『はぁど』で『しゅーる』であろう? ホホ。
わらわは伊丹駅の横で自縛霊となっておったのじゃが、生きてあった時より、面食いというのかのぉ、美しい殿御が大好きじゃ。
あるとき、背の高い歌舞伎者のくくり袴(ズボン)の端に取りついたのじゃが、しがみついてここに来た時、おるわおるわ好みの殿御がのう。
わらわが取りついたのは山根とか申したが、隣に居るヨシローというのも捨てがたし、あれよ、これよと思ふ間に、滑り落ちてこのていたらくじゃ。
山水館と申したのお。
この次こそはと思ふ間に、何と今度は死江良佐渡(シェラザード)といふ音曲団と縁結びて野辺良(ノヴェラ)と改名したそうな。
平山殿は指の動きが淫靡じゃし、ホホ。安針(アンジー)殿はどこからあのように高い声がでるのであろ、江川殿はまるでおなごのようじゃ、初々しい鼓打ちもおったしのぉ。
面々は六人もおるのじゃから一人くらいはお情けを……、と願いやまずおったが、成就する前にヨシロー殿に踏まれてしもうたのじゃ。
わが呪いが愛しの君に……無念じゃ。恐ろしいことじゃ。
わが霊力は最大にしてたったひとつ、年を止めてしまうのじゃ。年輪も重ねられず、老いを知ることも得られぬのじゃ。恐ろしいであろう。わらわを踏めば歳を重ねられぬ。それなのに好みの殿御が……
地味(ジミー・44MUGNAM)殿……、
瑠出衣(ルディ・プレゼンス)殿……。
何人もわが呪いにかかってしもうた。罪深いことじゃ。
じゃがわらわには天敵が居る。気味の悪いものを見ると意識を失うてそのまま眠りについてしまふ……。無念じゃ、我が呪いは其奴にこそと思ふに、ままならぬ。

どうしたのじゃ、わらわらと人の多く集まりて?!
これ、何をする、わらムギュわを踏んギュだらグシグシ寄ってたかって、呪いギュムギュムが恐ろしくないのかや……、あれ浅井! ハマ!新人の西までキュ〜……う、後ろの白髪のおやじ殿、ムギュゥそなたはもう…………

ふー……。




「すみません。インタビュー途中でありますが、地縛霊、伊丹の局は誰かの顔を見て眠りについてしまいました。
 それと、覚醒させてしまったのは、肩凝りがひどくて、『う〜ん、ここの痛みのツボ(が)ねェ〜』と喋っていただけです、あしからず」




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