〜死の大天使サンジュスト白田と木枯らしの歌〜






いやはや、ヨシロー君の話をせがまれているけど記憶のポケットを開いてみればサボテンが入っていて私の良心(在るはず、少しは)目がけて針の嵐を飛ばすのですよ。
何処だかのゲームのようで、ひたすら逃げる、蓋をする。
そうすれば本人に会っていても帰り道、足が引きつるときも在るけどひたすら白田一秀を召喚して封印し直すのです。
ペルソナー(白田君の笑い声)

え?白田君の話なのって?そう、プレゼンス時代、21歳前後の話です。前にも書いたことがあると思うけど彼はスーパーギタリストで、しかも美しい。
神は二物を与えたかも知れないけど会話術とメモリーを取り付けていなかった、と思われる頃の話です。
当時、白田の話す言葉といえば
「ええまあ」「そら、もう」「バッチリですよ」「ナハハハハ(笑い声)」だけだった。
冗談みたいだけど、本当にそうだった。
しつこいようだが、まるで、多種多様ある日本語を理解できず、あいまいに微笑みを浮かべた「外国人」に近いものがあった。

FUJITA 「今までの話、解るよね」
白田   「ええ、まあ」
FUJITA 「次のステージは、トラブル無いようにネ」
白田   「そら、もう!」
FUJITA 「絶対時間通りに来てよね」
白田   「バッチリですよ」
FUJITA 「遅れたら、罰ゲームありよ」
白田   「ナハハハハ(笑)」

いつも罰ゲームは繰り返されたが、いい加減慣れっこになってしまっていて、「白田らしく」て、妙にピュアで可愛くていいや、と思えるようになっていた。
ある日、電話がかかってきた。マネージャーの田代君からである。

田代   「白田が練習、来ないんです」
FUJITA 「また? 身柄、拘束してないの?」
田代   「いや、白田と一緒にいるんですが、怖いから外に出たくないらしいんです」
FUJITA 「珍しい。サボりたくて外に逃げていくなら解るけど、どういうことやろ?」
田代   「えー、何か、ヨシローさんが恐いとか言ってます」
FUJITA 「ハァ? いきなり、なんで?」
田代   「……ボソボソ……えー、ヨシローさんが、少林寺拳法が強いとか……」
FUJITA 「ハァ? アクションのヨシロー君が、強くて恐いんだったらカンフー映画もプロレスもゴジラ映画も見れないやん。いったい何の話で、練習さぼろーとしてるのか、聞きだして、もう一度電話ちょうだい」

馬鹿らしい。まともな話を引きだそうとするのは田代君でないと無理だし、メンバー全員で手話でも習いに行こうかしら? でもそれって寂しいよねープレゼンスの楽屋静かすぎて……。とか、次はどんな突拍子もないことを言ってくれるのかしら?とか思っていると、田代君から電話がかかってきた。
ブロックパズルをやりながら聞いていると、アクションのヨシロー君が、ギタリストを募集していて、何かの打ち上げで一緒になったとき、白田君が誘われたこと。
断る暇もなくFUJITAに話をしに行くと言ったこと。
それで困ってしまって、どうしていいか解らないこと。
えー!!
寝耳にはちみつのハムレットのオヤジの気分。どんな気分か解らない気分。

FUJITA 「で、白田はどうしたいって言ってるの?」
田代   「……ボソボソ……プレゼンスで頑張りたいって言ってます」
FUJITA 「ツアー入ってるしね、今抜けられても困るけど本当にアクションに入りたいと思ってないのかな?」
田代   「はい。プレゼンスって言ってます。ちょっと変わります」
FUJITA 「もしもし、白田?本当にプレゼンスでやりたいの?」
白田   「そら、もう!」
FUJITA 「もし、ヨシロー君から話が合ったら、断っていいのよね?」
白田   「そらもう!」

ほっとしつつ、酒の上の冗談かも知れないと思っていたら、ヨシロー君がバハマにやって来た。
礼儀正しい。やっぱり恰好良い。本当だったんだ。困ったなあ。断るのも悪いけど……と思いながら近所の店で話し合った。

ヨシロー 「悪いと思うのですが……」
FUJITA 「悪いと思うけど……」
ヨシロー 「おねぇさんにはちゃんとお断りを……」
FUJITA 「ヨシロー君にはちゃんとお断りを……」

同じ平行線を辿っていく会話に、ちょっとづつ、ちょっとづつ腹の虫が騒ぎだした。ピロリ菌かも知れない。
何故かって?何故かってヨシロー君は、白田が、もう一緒にやるという前提で話している。それはないでしょう?いくらメジャーでも……メジャーコンプレックスのFUJITAはとうとうキレた。
もちろんヨシロー君は恰好良いけど

FUJITA 「いくら言われても白田はあげられません。そんな一方的な話は聞けません。白田はプレゼンスでやりたいと言っています」
ヨシロー 「一方的な話ではないのですが、白田君と一度、話をしたいのですが……?」
FUJITA 「白田は恐がって、練習にも出られない状態です。お断りします」
ヨシロー 「解りました。おねえさんだからこれ以上、何も言いません」

ああ、なんと男らしく、りりしく、引き際も見事……。
でもでも、聞ける話と聞けない話があるもんねえ……。困るよ。一方的に言われても、本人の気持ちを無視するのは……本人は白田……の気持ち?
待てよ! ヨシロー君は理路整然と、頭も自分の手足が何処についているのか解ってるし……昔からしっかりしたあのヨシロー君が、一方的な話をするわけが無いし……
待てよ! そしたら、何で、こんな話に?!
変だ! どう考えても変だ!
白田君と通訳の田代君にすぐ来てもらった。

FUJITA「白田君、どういう話だったか解らないので、今から私がヨシロー君になって話すから、自分が答えたとうりに話してね? プレゼンス、辞めるとか言ってないよね?」
白田   (コックリ)
田代   「あー、おねえさん、白田の首振りも見といてください」
Fヨシ 「白田君、プレゼンスのギターやってたよね」
白田   「ええ、まあ」(コックリ)
Fヨシ 「アクション、今日のライヴどう思う?」
白田   「バッチリですよ」(コックリ)
Fヨシ 「僕とこ、ギター募集してるんだけど、やってみる気ある?」
白田   「そらもう!」(フルフル)
Fヨシ 「もし本気でやるんやったら、ちゃんとFUJITAさんに話に行くけど?」
白田   「バッチリですよ!」(フルフルフルフル)
FUJITA 「………。」
白田   (ニッコリ)

はぁ〜〜〜ぅぅうう、言ってるんだ。白田よ、白田。現世では口から出た言葉が世の中を動かしているんだ。
いくら、首がふるふるしてても、誰もそんな事気付かない。っていうか、君のボディランゲージが解るのは田代君しか居ない。
それなのになんて、邪気の無い笑顔。天使だ。いやサンジュストだ。大変だ。このまま白田を野放しにしておくとこれからも大混乱だ。打ち上げ禁止だ。隔離だ。どうしよう……ヨシロー君には悪いことした。こんなこと、説明できゃしない。はぅううう。

FUJITA 「はぅぅ……はうぁ……ゆ?」 FUJITA持訳「なんて奴?」
白田   「 ? 」(ニッコリ)

瞬間、履いていた運動靴を握りしめるFUJITA
ナハハハハと笑い声を残して逃げ去る白田。
瞳きらめかせ遊ぼうよと誘う子犬のように吹き始めた木枯らしが御堂筋のイチョウを舞上げる。はぅうう、はぅ、はぅぅぅぅ←風の音

FUJITA 「田代君、ヨシロー君のこと、どうしよう?」
田代   「誰も信じてくれませんよねぇ、白田、悪気無いですもんねえ。変に説明しても今更ねえ……」
FUJITA 「はぅぅぅぅぅ〜〜〜」 木枯らしとはもってしまうFUJITA

そのまんま、20数年経ってしまった。偶然ヨシロー君と出会ったとき、白田風「ニッコリ」をコピーしているが、完コピは難しいので多少気持ちの悪いものになっているような気がする。
と、こんなお話があったのでございますよ……。







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