バハマ東映映画でデビュ−(?)しちゃった。





 20年ほど前のある日、一人の男性が東京から私に会いに来た。
 名刺を見てみると、「プルミエインタ−ナショナル」の代表兼プロデュ−サ−とある。近所の茶店でお話を伺った。
 なんと、魔女卵という名前を映画のタイトルに使わせて欲しいとの事。東映映画で、予算は少ないものの、スタッフは一流のプロで固めるという。魔女卵のマネ−ジャ−も兼ねていた私は、頭をひねった。その頃の「東映」で私が思い浮かべるのは893路線じゃないか?と。映画の内容によってはバンドのイメ−ジにも関わるし、でもわざわざ、こちらに断りを入れてくるのも、まともなお話のようにも思える。
 おそるおそる、条件を言ってみた。
 魔女卵の楽曲を使用してもらえることと、原稿をチェックさせてもらう事、その他、色々、色々、色々色々、もうひとつふたつ色々……。
 普通なら、この辺で引くかな?と思っていると、増田氏はニコニコと笑っている。OK、大丈夫、折り合えるところは折り合いましょうということで、話はとんとん拍子に決まってしまった。どうしよう?!
 脚本家の方を紹介していただいて、第一稿の原稿をいただいた。やっぱり大人のドロドロ風だ。(-_-;)
 ちゃうねん、ちゃうねん。ということで、青春映画ですよねって事で音楽シ−ンの現状もあれこれお話ししたけど、何だか「お決まり」は外せなくて、第三稿までもつれ込んでしまった。もちろん、教育映画でもないのだから、色々、見せ場は必要だし。最終的には暴走族とバンドと、不良っぽいののカクテルってところ。
 まあ、この辺が精いっぱいでしょうってことで、クラップハンド。
 その代わり、インディ−ズバンドを目一杯出してくれるというので藤田は喜んだ。主人公の絡みにプレゼンスのメンバ−も全員出してもらえたし。ここだけの話、主人公の相手役の男の子に、白田君をどうかという事まで言っていただけた。役者等やったことはないので、無理かもしれないと増田氏に言うと、
「大丈夫ですよ、出演者は皆新人ばかりだし、台本さえ読めればスタッフは一流ですから」
 スクリ−ンテストは文句なしにOK。台本読みに入った。
 みんな、スタッフの方達は楽観的だ。もう決まり!みたいな感じで、形だけの本読みが始まる。
 氏名、年齢を言って指定されたページを白田が読み始める。
「う−あ−それはあ−……じゃない? (一行飛ばし)  だから………、あー……?」
 読めなかった。
 ……全員無言だった……。
 増田氏がポンポンと私の肩を叩いた。白田は大きな深呼吸をしている。
「メッチャ緊張しましたよ〜!」
「私も緊張したともさ……」
 と言いながら、私も白田の肩をポンポンと叩いた。
 ……白田主役の座を降りる……。
 最後に髪の毛を切るシ−ンがあったので、よっぽど髪を切るのが嫌なのかな?ってスタッフの人には思われたみたい。ち、違うのに。マジだったのに……。(T^T)
 それでもプレゼンスのメンバ−は可愛がっていただけて、たくさん出番を作っていただけた。2週間ほど、出演者のセリフ稽古があっていよいよ撮影開始。
 撮影スタッフは本当にプロの集団だった。すごかった。
 バハマでの撮りも沢山あったので、色々勉強させてもらった。
 朝七時集合といえば、全員五分前には集まっている。当たり前の話だけど、青年隊(飲み物や必要そうなものを詰めたバスケットをもって常に走り回る)まで各仕事が分業されている。ポスタ−やチラシも持参して張り替える。
 カメラ隊、録音隊もセッティングが信じられないほど早い。
 五分もしない間に、声がかかる。
「カメラOK」
「照明OK」
 ……。
「しまったぁ−!」
 7時前に来ていたプレゼンスのメンバ−に、コ−ヒ−とモ−ニングに行かせてしまった!
 助監督が大声をあげる。
「えー、スタンバイ、プレゼンスのメンバー、シーン3行きます!」
 おずおず私は前に出る。
「すみません、準備に三十分はかかると思って、モーニングを食べさせに……もにゅもにゅ……」
「……困りますねぇ。7時って言ったら7時なんですよ」
 フッと若いながら
「じゃあペーシ……とかのテイク行きます!」
 穴があったら入りたいよう。バビルII世のロデムになったろか。あう。
 と、こんな風に素人との差を見せつけられつつ、どんどん撮影は進んでいく。




 映画スタッフの中には、かなりの割合で、奇人変人がいるらしく、このときの助監督ってば、ガラスコップをガリガリ噛んで喰っちゃったよ〜……。(;〜_〜)
 特殊技能ってのは「凄い!!」と身を乗り出す場合と、引いてしまう場合があるよね〜、顔色が変わって引いたのはこっちだってほんとに。
 制作予算が少ないのでということで、スタッフの方も、映画の中に良く出ている。プレゼンスがコンテストに出るシーンで、審査員の役にいきなり出て欲しいと言われる。嫌! 絶対嫌!!
 そそくさと逃げ出そうとする私の耳にプロデューサーの増田氏が悪魔のように囁く。
「出てくれたら、プレゼンスのバンド名もメンバー名も実名で使うんだけどなぁ〜?」
「あーうーうー……」
 ………。
 どこからでもいらっしゃい。只、座ってればいいだけなら座っていてやるとも!!
 というわけで、
とうとう私まで引っ張り出されてしまった。
 映画のストーリー上では、心中させられてしまうし、多分、「今東光氏の河内カルメン」から引っ張り出されたであろう妙なネームだし、内心の「あ……う……う」な気持ちはいまだに引き摺っているが、それでもTV撮影とは違って、半端じゃない勉強をさせて貰った。
 魔女卵は、4曲入りCDをソニーから出して貰ったし、ミジィは、イントロ部の演奏シーンをみて、本格ダイエットに入ったし(あ、これ、ナイショだった……。この後8kgも痩せたんだヨ。時効だよネ)、関西のインディーズバンドの主立ったところは、バンド名入りで撮って貰ったし、プレミアショウの色々イベントにも、各バンド出演出来たし、藤田結果的には大満足の感謝です。
 プルミエインターナショナルはその後、 数々ヒット作を飛ばし、大きく飛躍していますが、さもありなん、さくら氏や増田氏や、おっかない助監督の方々も御元気でしょうか。
 藤田は、未だに、バハマのすみでゴキブリと共存しつつ、映画魔女卵を、まっすぐ見れないっす。
 ………あー〜〜〜〜! 思い出すためにビデオを見たら、…………ひどい!!
 やっぱり見れないっす。


《完》