さて、プレゼンスがメジャーデビューした後、少し、休めるかなぁと思っていると、AIONの泉君がやってきて、次は僕らの専属マネージャーをと言ってきた。
ちなみに、前身のマインカンプの命名は私であり、ブッキングは頼まれていて、同様にインスパイアもスケジュールの調整はお手伝いしていました。
頼まれて出来ることは「イッヨー」って感じで、軽く引き受ける癖が付いているので別にそれで「イッヤー」って思っていたんですが……。
専属となると、バンドの人生を引き受けてしまうことだし、プロダクションをやっているつもりもないので困惑した。
AIONはその頃、カッコ良くて人気があるし、かたやインスパイアは演奏力で人気があるし、お互いライバル意識は強いし、どちらのバンドとも話し合ったけど、さすが一歩も引かない。
何だか難しいライヴバンドの理想とするところ的な、サウンドと演奏力か、ビジュアル面とサウンドか、どちらを選ぶのかみたいなテストを受けているようだった。八方美人もしていられないので、藤田は賭を申し出た。
今現在の演奏力でもなく、人気者でもなく、そんなバンドを半年以内に動員No.1にしてみよう。それぞれ、やりたい事をやるのがベストで動員は後から付いてくるもんだって……。
と、いうわけで。
どのバンドと組んでみよう? うーん、いたいた。ヘタという事なら申し分ない。Baの末吉君
は、MOMOと組んでいた事もあるし、Voの妙な迫力のある子も面白そうだし……うん?ガーゴイル?建物のへりにこびりついている魔除けか?
Voの子と初めて(多分)交わした会話はKIBAの、
「何色がいいと思います?」
だったと思う。
唐突に聞かれたので「花」か「Tシャツ」の色の話だと思って、
「う〜ん、紫! 青みがかった紫かな?」
って答えたら、次に会ったとき、美しい紫色に髪の毛が染まっていた。
(うう、髪の色の話をしていたのか? あちゃー……。でも似合ってる)って事もあったので、印象に残っていました。
話し合ってみた彼らの最終目標を聞くと、
「バーボンハウスに出ること」
……可愛い。そんな希望ならバンドに迷惑をかけずにかなえられる。
ホッとした私は、一年間、私の指導の通りにしてもらうことを交換条件にして契約完了。ニヤリと笑った藤田は、何の準備も出来ていない彼らをハードスケジュールの渦に放り込んだ。毎日のスタジオ練習のほかに、イメージトレーニング、Voの子には特に思考トレーニングに力を入れた。
信じられないことに、KIBAの頭脳は何でも吸収し、進化させていく「特別な才能」の宝庫であったことだ。
「人間論」「 人生論」果ては哲学論にまでやすやす付いてこれるし、又それが彼の中で進化する。初期ガーゴイルでは感情を表現することに重点を置いていたので、双生児のように毎日毎日話し合っていた。KIBAにとっては毎日
目から鱗の状態が続いたであろうし、私にとってはダーウィンの進化論を猛スピードで繰り返しているようで、驚きの連続だった。
……いや何もアンモナイトとか始祖鳥だったなんて言っているわけではないですよ?
ともあれ、視野を広げることと、あるものの姿の内面を形に導き出すレッスンにはなったと思う(何の事だか、訳が……?)
バンドとしての活動では、皆さんに協力していただいて、ちゃんと演奏できないバンドとしては考えられない展開だったと思います。
すぐさま、バーボンハウスのオールナイト、姫路でラウドネスのオープニングアクト、京都野音のイベント、チキンジョージ、その他、メジャーバンドのスケジュールみたいで、何やこのバンド?!みたいな衝撃はあったと思います。
あれやこれやで話題のバンドになり、二ヶ月目ではバハマ動員No.1、四ヶ月目でバーボンハウスワンマン、……当時は何処のハウスも、インディーズには門戸は狭かったのです。
演奏はヘタッピでも、何かを表現すれば、何かの感動を与えれば、ライヴバンドは沢山の評価を得られる。私の持論を証明してくれた。ガーゴイルは一生懸命頑張ってくれました。せいいっぱい。
せいいっぱい……というのも、演奏力が付いてこないので、途中で止まる、ミューズのイベントでは、一曲が終わらずに何度も繰り返されたり……(エンディングなのに誰かがイントロをやりだすからまた元へ戻ってしまうのよ〜〜〜)さんざ、笑えました。えー、自分のバンドがミスしたら怒りそうなのに、落ち込んでいるメンバーを指さして、ガッハッハッと大笑いするのもガーゴイルが初めてです。でも、おかしかった。
そんな私にインスパイア一号は「お姉さんの勝ちを認めてやろう」と言ってくれました。
AIONの方は、ヴィンテージバーに移ってしまいました。寂しかったけど、すぐに理解ってくれたと思う。バハマには世話になったと人づてに聞いた時、やっぱ嬉しいもんです。
と、まあこのように書いてきましたが、あの当時、「何故」とか「お姉さんは気が狂った」とか、色々、色々、噂になっていたようなので、まさか、「賭してまんねん」とも言えず、上手なバンドとも組めなかった、とこんな訳があったのでございます。
で、楽しむことに重点を置いた私は、メンバーの信頼を逆利用して、随分遊ばせて貰いました。通ればリーチ!みたいな新しい発想の実験も、自分が面白いことはどんどんやらせてもらい、随分楽しい時間を過ごさせてもらいました。何をするにもおふざけの藤田、今から思えばメンバーも大変だったろうなと少し同情! そんなのを白状しろって言われても毎日が……だったかもしれないけど、たとえば、CD
を作るのにスケジュールに追われて曲が中々出来ないことも(二枚目のアルバム)あった時、ミーティング時に
藤田「は〜〜い、毎日お疲れのところ、束の間の休息のために、城崎温泉に一泊旅行ご招待〜〜!! カニもあるし、温泉にゆっくりつかりましょ〜〜〜う」
TOSHI「え〜、連れていってくれるんですか〜?}
SHIJA「やったー! いいっちゃ!!(?)」
KATUJI「カ、カニ喰えるんですか〜〜!」
KIBA「………。(どうせ、何かある……何かたくらんでいる……)」
藤田「うん、いつものスタッフの岸本君にも世話になってるし、たまにはね〜。 そやけど、予算、四人分しかないのでー。まず岸本君は決まりで、あと、メンバー三人しか行かれへんねん。で、今、曲が中々出来ないようだから、10曲分作った者順にって考えたんやけど……まあ、遅かった人は、一人、留守番で、残りを作ってもらっておいたら良いし」
KATUJI「えー!!」
TOSHI「大丈夫やカツジ、僕ら、リズム隊抜きでは曲は出来んから、僕らは大丈夫や」
KATUJI「そ、そうや!」
その時、反対側の席で、青い火花が……
KIBA「お姉さん、その案はヴォーカルにとって不公平じゃないですか? 曲が出来てから詞をつけるものやし……」
SHIJA「ぎ、ギターソロもそうやきに!」
バッシバッシバッシッ
藤田「そうやねえ……。でも、先に詞が出来てたら、詞に合わせたバックってのもありやしねえ、ギターソロにしても……」
ゴォオオオーーー〜〜〜〜〜。 バックドラフトって怖い。
でも、負けず嫌いなメンバーの事、一週間も経たない間にまずリズム隊の二人が「出来ましたっ!!」と嬉しそうにバハマに走り込んでくる。やっぱり、シージャとKIBAの争いか?と思っていると、翌日、二人同時に飛び込んできて「出来ましたっ!!」って………。
今更、全員の予約してあったんだよ〜とも言えず、
「うーん、困ったなぁ……」と腕を組んでいると、二人はお互いの足首をつかんでいる。
SHIJA「 KIBA君、10曲の中で、二〜三曲はサビのところ抜けてたりBメロの詞、ついてなかったりするんとちゃう?」
KIBA「それはレコーディング中に歌いやすいように変えるかも知れないからやし、それを言うならSHIJA、何で、二〜三曲、ギターソロ一緒なん?」
うわぁ〜、引っ張る引っ張る。ずっと見物していたい気持ちはあったけど、恐ろしいスピードで二枚目のアルバムが出来そうなので、藤田トイレに隠れて大笑い。
毎日毎日が冗談からコマの連続でありました。
「インディーズで渋公いっとく?」「青年館やってみよっか?」
その度に、全力でクリアしていくメンバーを見て、「こいつらは凄い」と心底思いました。今も精力的に活動しているのをみて、まったく頭が下がります。皆さん、こんな凄いバンドと組んでいたんですよ。もちろん今も心から応援しています。
チャンスがあれば、彼らの生き様をその目でみてやって下さい。
《完》
◆ガーゴイルオフィシャルサイト◆ http://boat.zero.ad.jp/gargoyle/