始めに、15年は経つだろう。時効だ。自分の恥を話すのだが、15年も経てば、薄い面の皮だって、厚くなる。ノミの心臓だって、ネズミのぐらいにも成るだろう。元々、ゾウの心臓だったら、ゆうにティラノくらいには成っている。
えーい、大盤振る舞い、言っちゃえ!あ、でも、その日に関わってた皆様、ごめんなさいと先に一応謝っておこう。
私、藤田はまったく酒を飲まない。そう、酒の上での失敗なのだ。とはいえ、途中からは全く覚えていないのだから、何と書きつづっていけばいいのか解らないのだから、お粗末なのだけれど、夢か幻か、頭の中に断片が残っているのだ。繋がらないところは後で聞かされた話なので、全くの夢物語かも知れない。
時計の軸を15〜6年前に戻してみよう。大晦日だ。その頃、バハマでは、大晦日のオールナイトイベントをやっていた。「その年、頑張ったバンドや、良くのびたバンドをピックアップして、オオトリのバンドが新年の幕開けライヴを2DAYSやる」みたいな決まりがあって、その年のオオトリはインスパイアだった。ヒットを飛ばして里帰りしていた、アースシェイカーのシャラとか、ひとくせ、ふたくせある愉快なミュージシャン仲間が集まってカウンターで、盛り上がっていた。(その頃は、現在より長いカウンターで7〜8人は座れた。)里帰り組と現役組との交流の場でもあったのだ。
デビューしてからの活動の話や、レコーディングの時のアンプの話や、卒業生の話は、バハマ活動中のバンドにも大いに勉強になったはずだ。
(サインだけしてもらっている奴もいたが)
夜中の12時のカウントダウンも過ぎて、新年のご挨拶、盛り上がったままだ。営業用のはソフトドリンクしかおいてないが、シャラ達はよく酒を飲むので、身内用の日本酒をたくさん用意してあった。
それが、間違いの元だった。元々、藤田は酒が、馬鹿ほど弱いので、めったに飲まない。グラスにビール2cm程で、真っ赤になる。
それでも人を酔い潰すのは好きなので、「ひさしぶりにシャラを潰してやろう」と日本酒のおとそセットを持ってきていて、「新年おめでとうシャラ!もう、ビールはやめて、杯をかわそう」と大、中、小とあった杯の一番大きいのをシャラに持たせて、なみなみとついだ。藤田「かけつけ3杯ね」
藤田「ウォー、さすがシャラ、もう一度、かけつけ3杯ね」
藤田「すっげー、シャラ、続けて3杯!」
藤田「やる〜! シャラ、え、私?いや、返杯なんて、気を使う間でなし、遠慮せんと、ほれ、3杯ネ」
藤田「シャラ最高!! グラスに変えても平気やね、いっきに三杯、いけたよね。今度はトレーでいってみよ……え、どうしても私も……? 解った。じゃ、一番小さい杯でネ」
シャラ「うれしー、おネェ、飲んでくれた。あっ、3杯ネ」
シャラ「いける、いける、おネェ、飲めるやん。はい、かけつけかけつけ」
シャラ「やった〜、おネェ、日本酒やったら飲めるやん。おかわりおかわり」
この辺りから、私の意識は何処か他の惑星に飛んでいって、全く覚えが無い。
次に意識が戻ったのは、ニイハラ君(ラウドネス)が父親と一所に店に入って来た時だ。何だか、喋っていたような気もする。その時、私の手にはコップに半分ほど入った酒……何でこんなもの持っているのだろうと思った記憶はある。
その後、店を閉めようと思った記憶もある。確か、「はい、今日はこれで営業しません。お客さんは帰って下さい」と客出しをしたような気もする。バンドの演奏は終わっていたのだろうか?
そこのところ、突き詰めると怖いので、今も考えないようにしている。
で、残っていたのは身内と里帰り組が居たような。
夢かもしれないけど、ニイハラ君が歌って(わせて?)いたような気も……。
シャラにも演奏させていたような気も……。
もっと悪い事に、ニイハラ君のオヤジに、「息子が、メタルをやって全米ツアーもやってるんだから、オヤジも、息子の歌でヘドバンをしろ!」と言っていたような気も……する……ような……夢かも……。でもオヤジが拳を振りながらヘドバンをしている図が何故か頭の隅にある。
常連客だったかおるちゃん(女性)にキスされたような気も……シャラにしたような、いや、まさか、そんなことは無かった筈。でも、何故かかおるちゃんにトイレに連れていってもらったのはよく覚えている。パンストに指がかからないので、引っ張ってもらってから「出てってよ〜!」って叫んだ覚えがあるからだ。その後の記憶は一切もない。
気がつけば自分のベッドの中で、がんがんする頭を抑えつつ、いったい何があったか、思い出そうとするのだが、何も覚えていない。
どうして、家まで帰ってきたのかも覚えていない。
見渡すと、びしょぬれで、どろんこのワンピースが、抜け殻のように落ちている。壁を伝って、ソロソロと辿っていくと破れたパンスト(多分、脱げなくてちぎったのだろう)コート(これもどろんこだ)玄関まで戻ってみると靴がない。そうっとドアを開けてみると入り口に片足が……もう片足分は何処にもない。
別の惑星に置き忘れてきたようだ。自転車が、軸から曲がっている。大気圏を突破するときに、歪んだのだろう。
恐い。何も覚えていない。梅茶を飲みながら、おそるおそる、シャラに電話した。
「昨日、私、何か変なことしてなかったっけ。何も覚えてないのが恐くて……」
「え?! クスクス……いやあ、クスクス 何もなかったよ。クス」
「いや、私、おとそから、記憶が無いねんけど、変な断片が……夢かな? 本当におかしなことしてなかった?」
「いや! ケッケッ 別に普段と変わらへんかったよ ハハハハ」
「本当に?」
「本当!本当!ウケッケッケッ」
う〜〜ん、そうなんだろうか。インスパイア1号に絡んでいたような気もするのだが……明日、1号に聞けばいいや……天井が回るぅぅぅ〜〜〜バタッ。
もう一度倒れる。
新年、幕開けのライヴはインスパイアだ。その日は無事終了して、ステージ衣裳をまだ着替えていない1号とカウンターで話す。
藤田「あれえー1号、その衣裳、ズボンのとこ穴あいてるやん。正月やから、おもちでも、つめといてやろうかァ? ちょうどまあるい穴やし」
1号「………!!」
藤田「ところで、大晦日どうやったぁ? 私、記憶に無いねんけど……」
1号「………!!!」
藤田「あ〜、黙ってるとこ見ると、演奏こけたんやあ。良かったねえ、私、気がつかんかったってゆうかぁ……」
1号「だ、だまらんかい、人が黙ってたら……このズボンの穴はなぁ、ネェさんが、タバコの火を押し付けたんやかないかい! そ、それだけやないぞぅ! 髪に火ぃつけようとするし、あんなタチの悪い酔っ払いは見たことないワイ」
藤田「え?? 私、何かした?! うそ!! そんなことする訳が……」
1号「あれこれ×△×□○×□×□××△□□……3.14159265………」
藤田「……、……夢じゃ!! それは1号の夢!!」
しかし、自分に記憶が無いというのは何と恐ろしいことだ。だって、何を言われても反論できない。本当に悪夢だ。あれ以来、酒は飲んでいない。第一しばらくはうちのスタッフもバンド連中も打ち上げに行くと、私の前には黙って「ウーロン茶」を出すようになったからだ。
ガーゴイルのプロモーションで東京に居た時も、off日があったので、プレゼンス時代から仲良くしていたラ・ママの大森氏(現イエモン事務所社長)のところへ遊びに行った事があって、「うんじゃ、飲みに行きましょうか?」ってことで大森氏についていったことがある。
ガーゴイルのTOSHIとKIBAも一緒についてきた。
カウンターに座って、 「私、あんまり飲めないんで……」と言ったら大森氏は
「じゃ、レモンチューハイでいいですか?口当たりいいし」
いいんじゃないかな?飲んだことないけど……と思っている内にKIBAとTOSHIはウーロン茶を頼んでいる。TOSHIがウーロン茶?と驚いていると、4人の前にそれぞれの飲み物が……手を伸ばそうとした瞬間、右から手が出てきて、「レモンチューハイ」の大きなグラスが、目の前から消えた。
状況把握が出来ずに、そろりと右側を見る。TOSHIが、いっきのみをして、グラスをカウンターに「とん」と置いた。
「あっ、僕、おねえさんの、間違えて飲んでしまいましたね、すみません。これ、僕の、口つけてませんから、飲んで下さい」 手に持たされたのは、「ウーロン茶」だ。し、しらじらしいのではないだろうか。
それ以来、気を付けていると、仕事で酒席に出る機会はたくさんあったが、業界関係者が私にビールを注ごうとすると、必ずメンバーかスタッフが横から、グラスを突きだして、かわりに受けている。 こめかみに汗を浮かべながら……。
きっと、間違った「うわさ」に尾ヒレが20本ほどついているのだ。
最近、もうほとぼりもさめているので、ちびッと飲むことにトライしてみようかな?
ビデオをセットしておけば、抜け落ちた記憶の恐さもないし……。
でも、ビデオを再生してもっと恐かったら、どうしよう。
〜完〜
※今回の使用写真は大昔のものです(笑)