Eins:Vireは、私がGARGOYLEと二人三脚で、爆発している頃にやってきた。というか、当時、バハマのブッキングマネージャーだった瀬尻大作がLUNA(B)を可愛がっていて、メンバー集めの相談にも乗っていて、ちょうど、PRESENCEが、メジャーで解散した頃のことでPRESENCEのDrの「ひばり」君が、大阪に帰ってきているので、何とかアインスに入って貰えないだろうか?と大作が私に頼みに来た。
他のメンバーは揃っているというので、「ひばり君」に参加を呼びかけた。
そうでもしないと大作君は毎日毎日、私の周りの酸素が無くなる程「何とかしたって下さいよーー!」とばかり喋りまくるのだ。あまりのことに「大作!一歩下がって話してくれぃ」と息も切れ切れに返答するのがやっとだった。立板に水というか、滝の方が近い彼の熱意は、一向に衰えることなく、奇妙な奇妙なアインスとの関わりが出来てしまった。
もちろん、元、マネージャーをしていてメジャーに送りだしたPRESENCEのメンバーを入れるのだから、半端なことも出来ない。「どうします?どうします?どうしたらいいです?」と大作君に詰め寄られるので、
「リハーサルに六ヶ月、一切ライヴなし、六ヶ月後に初ライヴと同時にミニアルバム発売…… だから、三ヶ月でワンマンライヴ用の曲作りと、……レコーディング用の曲を……大作!もう一歩下って! ……五ヶ月目には完パケしてなきゃだし、ライヴ二ヶ月前から雑誌で煽るから、宣伝用の写真も……悪い、もう二歩下って! ラフでいいから曲調を早めに……くれないと、イメージが……」
「それって!(一歩近寄る) ライヴ一度もやらずにCD作るって(一歩近寄る) ありですかね。
それって(一歩詰め寄る)メチャ!カッコイイですやん!!(顔に息がかかる)」
と、こんな調子で毎日、熱い熱い気息(?)に追いつめられていた。
でも、どういう音楽性を目指しているのか、かいもく解らないので、メンバーとも何度もミーティングした。大作君と一緒に。妙なミーティングだった。
私が、質問すると、メンバーが答える前に大作君が一人で「こんなでこんなでこんなで……」と説明する。そして、メンバーに「そうやろ!」と念を押す。
メンバーは「コックリ」と首を前に振る。
また私が質問する。
すかさず大作君が「それは、某外タレ風のあんな感じで、こんな風にうんたらかんたら……そうやろ、お前ら!」アインスのメンバーはまた「コックリ」する。
何度か会っているうちに、おかしいと思いだした。
次に大作が、「ミーティングしたって下さい」と言ってきた時、「いやだ!!」と断った。
「何でですか?何でですか?何でですか?」と大作が詰め寄る。
「大作!!君が、最初から、最後まで一言も口をきかないのだったら、行く」
「え?! 僕、何か口出してますか? 言ってますか? そうですか?」
(お前しか喋ってないんだよ。)
「だったら、絶対喋りません!」という約束のもと、近所の茶店へ約束の時間に行く。四人とも先に来ている。オハヨウと言いかける大作に「だまれ!」と叫ぶ。
T.F.「おはよう」
メンバー「……(黙って頭を下げる)」
…………。
……15分程、そのまま過ぎていく………。
黙ったままコーヒーを飲み、タバコを2〜3本吸って様子を見てみる。
皆黙ったまま、下を向いている。今日のミーティングは、何を相談したかったのだろうかと想像する。皆だまっている。また、2〜3本タバコを吸って、時計を見ると10分程たっている。
このだんまり集団に負けてられないので、T.F.は遊ぶことにした。
T.F.「ルナ君、このキーの音、出るかな? アー!」
LUNA「あっ、あ〜〜〜」
T.F.「ひろちゃんは?」
HIRO「アーー」
T.F.「ひばり君?」
HIBARI「あ〜〜〜〜〜〜!」
T.F.「うん! 良かった。みんな、声は出せるし、私の声も聞こえてるのよね〜。それが解れば今日のミーティングは実りあったね〜。じゃ、これで」
LUNA「あっ、あの〜〜」
やっと、言葉を発し始めた。それほどシャイだったのだ。
それでも、ポツリ、ポツリと、途切れがちなので、大方は、想像で「これをこうしたいの?」とこちらから何パターンか、聞きたいであろう質問を考えて「あっ、はい」と返事があればそれに答えるという、おかしな会話が成り立っていた。
時々、どうにも解らなくなると、大作君に「彼らの言いたいことが良く解らんのよ〜!」と嘆くと、大作は、
「でもね、でもね、おねえさん、ATSUO君てね、足が女の子みたいにつるつるできれいなんですよ!」
「何もそんな事、聞いていない。どんな音の世界を目指してるのか、聞きたいのよ!」
「そうですよね!でもね、でもね、おねえさん、LUNAってね、メチャ可愛いんですよ。僕が、泊めてもらいに行ったらね、LUNA君、ごはん、作ってくれるんですよ。たまごやきとか」
「そんな事も聞いてない!活動をどうしたいかでしょ!」
「そうなんですよね。それでもね、HIROちゃんってまめで、菊菜の葉っぱをね、一枚一枚、水洗いするんですよ。ていねいに! メッチャまじめでしょ!」
「…………。も、いい!」
と、こんな毎日が続いていたものだ。何故か、私と、会話のテンポが合わず、大作君となら、もっと合わない筈なのだが、円の端と端とで、気が合っていたようだ。
思い出していたらキリもない。大作君にとっても、一番、熱く燃え上がる日々だったのかもしれない。この世界がミサイルで崩壊しても、「でもね、でもね、これってひどいんとちゃいます!?」と言って、ガレキの中から這い出して来そうなエネルギーの固まりそのものだった奴が、37歳で死んでしまうなんて、誰が想像しただろう。
11月の葬儀の時に、アインスのメンバーとひばり君が最後まで佇んでいた姿がよぎる。みんな、いい奴だよね。
〜完〜