今は昔、浪速の雑踏の中に反魂と不老不死の術を極めた妖術使いがおった。地下に設けられた祭祀場に居座り、怪しい契約の下に、夜な夜なその肉体を滅ぼし、また復活するという、闇の大魔王とも呼べる、げに恐ろしき使い手であった。 世に言うネクロマンサーは、おおかた他の肉体を駆使するものだが、既に本来の肉体を忘却の彼方にまで葬り去り、幾世代にも渡り時代の裏に潜み続けていくうちに、己自身を仮の住処におきながら生きながらえることができるようになったのであろう。 さて、強大なる力と知りつつも、闇の覇権を奪い奉らんと挑みかかる愚かな駆け出しの小悪魔どもたちも後を絶たなかった。しかし、きゃつ等の浅知恵が及ぶことなどあるはずもなく、ただただそのおぞましき妖術に逆に生命エネルギーを吸い取られ、まさに餌食となるがままであった。 しかし、この妖術使いにも微塵ほどの油断を生じる時が無いわけではなかった。とある年の正月、「スカート」を履いてきたではないか。 常時、絶対魔法防御陣を構築し、いささかの攻撃も許さぬ身が、その防御力を半減させている。 「おのれ、油断しおったか、くそばばあ。おのおの方!この好機を逃すまいぞ。」 まずは、「触発(インスパイア)」と名乗る輩が、妖術防御の呪字を顔に描いき、不老不死の呪文をお札に記して対抗、生命力吸引を防いだ。次に、「地球震動(アースシェイカー)」と「超大音量(ラウドネス)」が、普段決して受け付けぬ酒を浴びせかけた。 見事成功!妖術による防御の甲斐もなく、戦闘能力を低下させて逝くではないか。 が、しかし、その時、この世のものとも思えない、地獄の底から響き渡るような鳴動。 ンンンンゴゴゴゴーン!!! 幾世代にも渡りその強大なる魔力をふるい続けただけあって、最後の安全装置が仕掛けてあったのだ。 妖術により身をやつしていた仮の姿、偽りの姿は轟音とともに消し飛んだ。遂にその本性をさらけ出したのだ。愚かなる対抗呪符は瞬時に消し飛び、断末魔の叫びが響き渡った。阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられ、挑みかかった者たちは、ボロ雑巾のようにズタズタに引き裂かれ、その地下祭祀場の壁のシミとなった。 惨劇が繰り広げられてから幾星霜、壁のシミからようやく元の姿に近く回復させることができた「触発」の一人が、身をやつして偵察にきた。 「なんぼなんでも、もうだいぶ弱っとるやろ。」 しかし、奴の思惑は丹波屋のおはぎの200倍は甘かった。 「やっぱり妖術だ!」
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